2013年8月7日水曜日

「『人間中心設計の基礎』刊行記念 トークイベント @ジュンク堂書店」 その1

 2013/08/06に開催された「『人間中心設計の基礎』刊行記念 トークイベント @ジュンク堂書店」のノートその1です。その3まで続く予定です。



◆『人間中心設計の基礎(HCDライブラリー第1巻)』の勘所

■本の執筆趣旨
・大学院修士・企業の方を対象にした教科書
・網羅的で自分の主張はない(抑えた)
・バイアスがないので安心して読んでもらえる

■どんな本か?
・基本は人間中心設計の本

■人間中心設計とは?
・人間の特性や利用状況、環境や生態に適合した人工物を設計するためのもの
・元々は人間工学の考えから入ってきているもの
 →物理的な環境(温度、湿度、照明)も重視している
・でもそれだけではない
 →社会的、心理的環境も含めて考えている
・人間的な特性も入っている
 →心理的な特性、性格的な特性、価値観などなど
 →エルゴノミクス的なものだけではない
・他にも人間の特性には色々ある
 →身体
 →認知
 →不自由など
 →→これらも入っている
・利用状況
 →状況に応じて使うものが違う
 →→座っている / 立っている
 →→屋内 / 屋外
 →→通常時 / 緊急時
 →状況を考えようということ

■人間中心設計の反対にあるもの = 技術中心設計
・「技術があるから」「性能が向上したから」という理由で作ってしまうもの
・具体例 : 三次元テレビ
 →昔から技術はあった
 →→心理学の両眼視差で作ればよいというのも分かっていた
 →でも、輻輳や調節という眼球の生理的手がかりを無視している
 →→見ていると疲れる
 →だから流行らない
・三次元テレビは以前にも流行りかけたことがある
 →でも駄目だった
 →→また諦めずに技術者はやってしまう
 →→→そして流行らなかった
・具体例 : 最近の掃除ロボット
 →フローリングでさーっと綺麗になっている部屋なら掃除できる
 →→そんな部屋、実際にどのくらいあるかは分からない
 →→→でも、そういう所でしか使えない
 →座布団の上にあるおせんべいのこぼれかす
 →→このロボットに拾える?
 →面白いけどこのロボットも技術中心設計だと思う


◆ユーザビリティとは何か

■概要
・人工物が備えるべき性質
 →生身の人間ではできないことを人工物で支援しようということ
・2つのファクターがある

■1つ目のファクター : 有効さ
・やりたいことができること
 →やりたいことがあり、やりとげたいのが人間
・寝返りのような意識的ではない行動は除外される

■2つめのファクター : 効率
・時間が短い = 効率がよいということ
・でも時間が短いことだけではない
 →身体的リソース(披露)も関係してくる

■初期状態から目標状態へ
・最初は初期状態
 →目的が達成されていない状況
・そこから目標状態に向かっていく
 →この2つの状態の距離をどうやって埋めていくか
・うまくいかない、途中で諦める
 →無効
・なんとかたどり着く
 →有効
 →→非効率でもたどり着けるなら有効だということ
・効率 = 有効な形で目標に到達できて、しかも短時間リソースを使わないで出来ること
 →お金、時間、披露をかけないでできること

■有効さの点でユーザビリティが低い例 : windows95, 98 
・意味の分からないエラーメッセージ
 →「karnel32.exe」ってなに?
 →「一般保護違反」ってなに?
 →「閉じる」ボタンは分かる
・人間には「閉じる」しか分からない
 →意味が分からなくてもボタンを押すしかない
 →→でも、それって意味ないでしょう?

■効率の点でユーザビリティが低い例 : amazon
・本を買おうとすると、少なくとも5手順は必要
 →手数がかかる
・ワンクリックという仕組みがある
 →誤購入とかはあるけど、こちらはとにかく便利(ここでいう便利さ = 効率)



◆ユーザビリティ以外にもUX(ユーザエクスペリエンス)という概念が出てきた

■ユーザビリティは品質の特性
・ユーザビリティはモノの特性
 →それを幾ら良くしてもユーザが満足するとは限らない
・『ユーザの満足』はもっと広い概念
 →ユーザビリティだけよくしてもデザインが悪いと嫌われるということ

■品質と満足感の関係性
・ユーザビリティで言うところの品質 = モノの側面の話
 →UXから見たら独立変数の1つ
 →因果関係なら原因の1つ
・満足感 = 人の話
 →従属変数
 →因果関係では結果の方

■ユーザビリティからUXへのシフト
・2000年代前半まで
 →ものを作っている人の関心 = モノをよくする
 →古典的
・2000年代広範 ~ 現代
 →受け取った人がどう感じるかを考え、それを良くしないといけない
・このようにシフトしてきている

■UXにおける事前、最中、事後
・この3つがとても大事になってくる
・事前 : 満足感は使っているときだけのものではない
 →期待感 = 実際には存在しない経験
 →でも一種の経験
 →→「こういうものがあったら嬉しい」
 →→「こういうものを使ってみたい」
 →マーケティングの人達が力を入れているところ
・最中 : 実際に使ってみて満足するか
・事後 : 長い間使っていて満足できること
 →『最中 : 使ってみて満足する』とは違うことが多い
 →買ってみてはすぐ良いと思うけど、面倒になって使わなくなってしまったりとか
 →家に持って帰って寝るとき使おうと思ったけど、音がうるさくて嫌だとか

■ユーザビリティからUXへ
・一気に広い観点で捉えないといけなくなっている



◆UXとCX(カスタマーエクスペリエンス)

■UXをCXという人もいる … どう区別する?
・モノを買うまではカスタマー
 →これは従来のアプローチ
 →→マーケティングなら買ってもらうまでが指標になる
・使い始めたらユーザー
・『買うこと』を境にして2つのフェーズに分かれるということ
 →買うという視点(カスタマー)
 →利用するという視点(ユーザー)



◆サービスについて

■製品とサービスの違い
・製品はuseするもの
・サービスはreceiveするもの

■サービスについて
・コーリン・クラークが1941年にサービス産業を位置づけた
・サービスの大きな特徴
 →サービス産業とサービス活動は別
・サービス活動はサービス産業の中にだけあるのではない
 →第一次産業、第二次産業にもサービス活動はあるということ
・製品の使い方が分からなければコールセンターに問い合わせる
 →これもサービス
・第一次産業、第二次産業でもサービスは重要なファクターであるということ
 →だからHCDで取り扱わないといけない

■サービスでも環境設定などが必要になる
・店員が笑顔で「おいしい?」と聞いてくる
 →これもサービスの一環
・でも、食器、食堂という環境設定がなかったら?砂漠の真ん中だったら?
 →あまり意味がない
・声かけはレストランという環境において始めて意味を持ってくる活動だということ
 →サービス活動にも第二次産業が生み出す製品が関係してくる



◆設計と経験のプロセスを考える

■市場と企業
1. 市場
 →ユーザーには不満、足りないという意識がある
 →→これがニーズやモチベーションになる
2. HCDでは、それをできるだけ現場(フィールドサーベイ)して集める
 →マネジメントサイドが「その方向で行く」と決定して設計プロセスのスタート
3. そこから設計されるとイメージや文章、数値などの情報が出てくる
 →それが企業の情報になる
 →→情報はテレビ、広告、記事、SNSなどに載る
4. そしてユーザーに入る
 →市場(ユーザー)に入る
5. ユーザー彼らは色々ものを探している
 →情報の中から「良さそうだ」という仮説を構築する
 →そして使ってみる(仮説検証)
6. それに並行して企業では製造、広告を行う
 →ユーザは販売されているものを買う

■経験・記憶
・買って使ったら短期的な経験になる
 →それは記憶に残る(記憶という言葉が心理学っぽい)
・長期的な経験も記憶に残る
 →「新しい機能の使い方が分からない…」
 →→電話でコール使い方を聞く
 →→→これ自体が長期的な経験になる
・販売やサポートで製品に関する活動が行われ、それが長期的な経験(記憶)として残る

■ユーザーはいずれ飽きたり不満足になる
・そのとき、使用を取りやめる
 →そしてイメージが残る
・「手足がもげた熊のぬいぐるみ」
 →直して使ったりして、それも印象に残る
 →→そういう製品がそれだけある?
・製品は初期の目標が達成できなくなったり、より良いものが出ると捨てられる
 →そういう最終的な印象も記憶に残る
・『その記憶が新製品の情報と組み合わさって仮説の構築に至る』という流れがあるのではないか?



◆経験工学について

■経験工学って?
・黒須氏が考えているもの
 →製品とサービスを扱うもの
・なんでサービスが入ってくるのか?
 →HCDはISOで規格化されているが、そこで製品だけでなくサービスもやらないといけないとされているのが発端

■UXという言い方は不十分?
・だが、CXというのも逆にユーザが入ってなくて不十分
 →だから経験工学

■経験を考える上での三つの要素
・品質特性
・感性特性
・意味性

■品質特性
・ユーザビリティ
 →1990年代から2000年代始めに盛んになったユーザビリティ工学という分野
・信頼性
 →故障しないこと
・安全性
 →火を噴いたりしないこと

■感性特性
・UX的に考えるとこういうものが入ってくる
・チクセントミハイのフローとか
 →心地よく使える状態
・使う能力やチャレンジングレベル、使い心地で決まる
・感性工学が(全てではないけど)やってきたこと


■意味性
・目的適合性、ありがたさといったものを加えたもの
・例 : 三次元テレビ
 →あればありがたい
 →でも、あるべき形になっていないという問題がある
・例 : DVDにそのまま書き込めるビデオカメラ
 →HDDカメラの登場で一瞬で消えた
 →→これも本当に意味があった?

■UXデザインと経験工学の違い
・品質特性、感性特性までを取り扱うのがUXデザイン
・意味特性まで取り扱うのが経験工学







黒須 正明様、佐々木 正人様、ジュンク堂書店様、ありがとうございました。

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